今そこにある命と未来にあるべき命と2007年08月11日 22時53分34秒

インド高裁によるノバルティスの請求棄却に関して
薬事日報さま)へのtb。

Summary
グリベック メシル酸イマチニブ(Imatinib mesilate)錠。
慢性骨髄性白血病などの原因となる遺伝子の異状により生じた
遺伝子産物(チロシンキナーゼ)の阻害剤。
の発売元であるノバルティスファーマ社が、インドにおいて物質特許申請を行っていたが、却下された。同社はこれを不服とし控訴したが、8月6日、チェンナイ高等裁判所はこの訴えを棄却。

ノバルティス社は、以下3点を主軸に訴えを起こしていた。

<1>
インド特許法の「既知の物質にマイナーな改良を加えた医薬品については、著しい効果の改善につながるものでなければ特許性を認めない」という表現は曖昧であり、特許承認権限者に専横的な権限を与える事になり、インド憲法につき違憲である。
<2>
物質特許申請に対し却下の裁定を下した特許庁の人物と、特許庁の裁定にについてインド知的財産権上訴委員会(Indian Patent Appellate Board:IPAB)に訴えた際の担当官は 同一人物 当時特許庁に所属し、後にIPAB担当官になったと思われる であり、担当者の変更を要請。
<3>
インドの特許法は他のWTO加盟国の特許法と異なり、TRIPS協定に違反するものである。

この3点につき、チェンナイ高裁は、「インド特許法はインド憲法に違反していない」「WTOの問題は当法廷の裁定権限外である」とした。またIPAB担当官の問題もこれを棄却した。

なおノバルティス社の今回の提訴につき、某国境無きNGO団体など多数から、提訴の取り下げが要求されていた。

この判決について、ノバルティス社の意向は未発表。←いまここ


(内容に不備があるかもしれませんので、ご確認ください)

というものです。
当blogにおいても同様のケースについての記述がありますので、ご参照ください。

命と薬と思想の価値(1)
命と薬と思想の価値(2)
命と薬と思想の価値(3)
ジェネリック医薬品って何者?

最初から書くと非常に長いので、上記記事をご一読されている事を前提として始めます。



至極大雑把に背景をかいつまんでみると。

新薬には20~25年はパテントがあり、ライセンス料の分上乗せされて価格はどうしても高くなってしまう。

特許は基本的に国内法であるが、TRIPS協定により他国であっても勝手に製造販売は出来ない。

しかし、例えば抗HIV薬のように絶対必要であるにも関わらず、新薬が高くて十分に供給できないケースがあるので、TRIPS協定を一部曲げて、パテント期間内であっても、安価に ジェネリック医薬品 ジェネリックとはいうものの、新薬のパテントが終了していないのでコピー薬というニュアンスが正しいかと思われます。
もっともコピーとはいえど品質に関してなんら言及していない事にはご留意下さい。
を製造販売できるようにしよう。
ドーハ宣言
(内容に関してはご確認ください。個人的な所見ですので保証はいたししかねます)

私個人のスタンスとしては、

「ドーハ宣言はあくまで緊急避難的措置である」
です。
(ドーハ宣言自体もそういうニュアンスのようですが、ソース見当たらず。。。)

以前はHIV治療薬の話で、今回は違うジャンルの医薬品です。が、中身はほとんど一緒です。
そしてこの点について、以前と考えは変わっていません。

「なぜ新薬にパテント料が発生するのか考えて欲しい」
「その場凌ぎの対応だけでは、長期的視点から言えば全員死んでしまう」

未だそのことを理解できていない団体さんがいらしたのは、非常に残念です。
腹が減ったからといってニワトリを食ってしまったら、もう卵は産んでくれません。



断っておきますが、「緊急避難」であるならば致し方ない、と言う点は、消極的ながら賛成です。
患者さんに医薬品を確実に供給する事は、医療人ならば誰もが分かっていることです。
そして金勘定なんてのは患者さんに押し付けてはいけない問題です。

この問題について最も不服だと思うことは、製薬企業が自腹を切っていれば済む事だという流れです。
気持ちは分からないでもありません。目の前の患者を救うことが医療人の最優先事項です。
しかし。
それだけしか考えていないようでは、真に救う事にはならない事に気が付いているのでしょうか。

これはもはや国家的、インターナショナルな取り組みの問題です。
一企業が自己犠牲の精神で奉仕すれば解決する、なんて甘い問題じゃありません。
本来は 国を挙げての取り組みで解決すべき問題 一企業に対しての自腹の強要なんてのは責任転嫁の極みでしょう。
文句を言う事はあっても、金を出す事は無い団体さんの思考は停止していませんか?

私は、公的資金の注入が最も筋の通った解決だと思っています。
医薬品はTRIPS協定に基づき、正規の価格で提供。
まず国がそれを一度買い上げ、価格をジェネリック並にして国民に配布。
国家予算の財源に関しては、ODAなりの援助で賄う。
そうすることが最もスマートだと思います。
少なくとも、一企業に対する自腹の強要よりは真っ当な意見だと思ってます。
そしてそのような国家の取り組みに対してのアドボガシー運動こそNGOなりNPOのすべき事ではないのでしょうか。

相手を見誤ってはいませんか。
のはずなのに、なぜか一企業へのバッシングに終始しているのは、なんとも理解しがたく時間の浪費だと思わざるを得ません。
焼け石の水の対症療法だけでは何も解決しません。むしろそういうことを主張していくのがNGOの役割じゃないんですかね。
少なくとも、訴えを取り下げろと言う要求は、お門違いに思えて仕方ありません。

この問題を、銀行と貧困層の方々という図式に置き換えて考えた場合。
「金が無くて困っている人がいるんだ。銀行は自腹でそういう人たちに金を配れ」
と言っているのと似ています。
金を配って貧しきを救う。大層ご立派ですが、それで銀行がつぶれたらどうしましょう。



基本スタンスは変わりませんのでこの辺で終わりますが、最後に。

暗いと不平を言うよりも、進んで明かりをつけましょう。
明かりのつけ方を知っているなら尚更です。