トイレとQOL2006年09月06日 13時30分00秒

過活動膀胱.com薬局のオモテとウラさま)からのtb。

過活動膀胱。聞き慣れない言葉です。
極めて簡単に言ってしまえば、膀胱周りの筋肉の異常活動ですが、その原因を辿れば自律神経の変調、といったところです。
症状は予想通り、排尿行動の異常です。トイレが近い、トイレの回数が多い、など。

トイレ。
これは大小ありますが、日常生活においてこれほどまでにQOLを低下させるものはそうそうない
そして他人からみれば取るに足らないことだと一蹴されてしまうものも珍しくありません。
今回はそんなトイレにまつわる話です。



私自身の体験を話しますと、高校生のときに、酷い頻尿に悩まされていました。
今はもういろいろな工夫の末に改善しておりますが、人よりはトイレが近いです。

例えば授業。
ほとんどの高校ではおそらく50分間の授業でしょう。1時間弱のさほど大したことが無い時間に思えます。
しかし、当時の私には無限に続くかと思える地獄でした。
休み時間にトイレに行きますが、授業が始まって10分もしないうちにトイレに行きたくなります。
一番酷い時は、トイレで用を足し終わった瞬間から次の尿意を感じる、つまりトイレに行っても尿意がほとんど消えないのです。
おかげで授業中はずっとトイレを我慢していました。お腹をぎゅっと締めて耐えつつ、水分を取らないように唾さえ飲み込むことが怖い。冷や汗もだらだら流れるし手足が冷えて震えるしとてもじゃないけど授業に集中なんか出来ませんでした。
それでもまずまずの成績だった俺天才www

授業はまだいい。問題はテスト。
数学のテストはちょっと時間が長いんですよね。しかも途中退出出来ない。
模試にいたっては2時間近く閉じ込められるので、気が遠くなる。
小論文の入試なんてもっと長いので、受験校で小論文のあるところは論外でした。
(推薦で通ったので結局は関係なかったのですが)

学校外でも、通学のバスの途中で耐え切れなくなり降りたこともあるし、修学旅行先でもトイレのために見学を諦めた事も。
ロクなもんじゃありませんでした。

これだけ見ても、いかにQOLを低下させるか。
当人以外には大したことが無いように思えてしまうのですが、実際には死活問題なのです。そういう悩みの無い人にはさほど重要視されないという苦悩もあり、同じ頻尿仲間のH芝君とは悩みを共有できるよき友でした。



この「トイレが近い」症状。原因は何か。
tb先記事からのリンクを辿れば分かりますが、一つは「勝手におしっこだそうとする」、もう一つは「栓が緩い」。
(尿量が多いというのはまた違うので除外します)

勝手におしっこ出そうとする。つまり、実際の膀胱内の尿貯留量が低いレベルであるのに、排尿シグナルが出てしまう。
高校の時の私も、今思えばこれだったんじゃないかと思います。尿意が頻繁に起こる割には、尿量少なかったし、水分摂取量も常識範囲内でしたから。
これは自律神経の変調が原因です。
具体的には、膀胱排尿筋(膀胱を包む筋肉、大きさに影響)は副交感神経の興奮で収縮しますが、副交感神経遮断薬を用いれば解消します。さらに言うと、膀胱排尿筋は弛緩し、膀胱括約筋は収縮するので、膀胱の大きさを元に戻し、さらに出口を閉められるので、結果おしっこを我慢できます。

専門じゃないと難しい言葉がたくさんですが、要はトイレが近いのは治療すれば治るということです。

こんな単純なことが、どれだけ光明を得るか、当事者で無いと分かりませんね。
私も高校の時分、耐えかねて医師に相談し、抗コリン薬を処方してもらいました。また骨盤底筋体操もやったりしました。
すぐには治りませんでしたが、段々平気になり、大学に入るぐらいにはちょっとトイレが近いぐらいで、あからさまな病的頻尿では無くなりました。

10代というと精神的にも不安定で、ときどき大腸過敏症候群で悩まされる人もいますが・・・私の場合は前に来ましたね。どちらも自律神経の変調ですから、悩んでいる人も多いのでは。併発だったらもっと大変です。



このトイレ事情は、排泄という抗えぬ生理的欲求に直結する事柄なので、何は無くても優先されるべきだと思います。
しかし排泄という行為自体がどちらかというと表に出したくないもので、どうしても優先順位が下げられてしまっています。

今、私は脚が悪いのですが、その事がトイレでの苦労に直結したりします。
それは病的な排泄異常ではなく、トイレの機能的な問題です。

入院中はベッド上から車椅子、松葉杖となっていきましたが、その時々によってトイレ事情は激変します。
ベッド上は看護師さんにお任せするしかありませんが、車椅子になると自分でトイレに行けます。
車椅子用のトイレに必要なのは手すりとスペース。私は脚を使えなかったので、腕の力だけで無理矢理トイレに移ったりしました。
しかし病院のトイレといえど完全ではなく、車椅子用とあっても、十分なスペースが無い場所もあります。
(そういう場合には車椅子ごとジャンプ&空中ターンとか荒業使ってましたw)

病院なのに、スペースの問題で無茶な設計になっているのはいただけませんね。
それに比べ、お店などの障害者用トイレ、今はユニバーサルスペースとして解放しているケースも多いです。
こういったところはスペースがとてもゆったりしていて、車椅子でも移動は楽でしょう。

しかし。
病院のトイレもお店のトイレも、障害者用トイレには共通の欠点があります。

これはもう、車椅子でトイレに入れば自ずと分かる事なのですが、何故か改善されません。
車椅子を使うということは、少なくとも片足が使えないということです。
じゃあそういう人が障害者用トイレに行ってスムーズに用を足せるかというと。
出来ません。

というのも、車椅子から便器に移るのが難しいんです。
下図をご覧ください。障害者用トイレに良くある配置です。
Chemdrawで描いていますがご了承ください。左上のドア(実際はスライドドア)から入ります。
車椅子は5角形に○のベンゼン環、便器はもう一つの5角形のシクロペンタジエン環、黒太線は固定手すり、点線は可動手すり(上方に引き上げられる)、流しはシャムロック型のd軌道です。

障害者用トイレ模式図

この図だと、便器の左側に車椅子を止めて、右方向に体をずらして便器に移ります。
この時問題なのは、手をつく位置です。
足が動かない場合、左手は車椅子に、右手は便器について体をスライドさせるのですが、まず右手を便器に突っ込む恐れがあります。
笑い話のようですが、実際手を滑らせたりします。
また車椅子はブレーキを掛けていても、自分の体重が掛かって動いてしまう危険もあります。
つまり、
良くあるこの配置では、非常に高いリスクを払うことになるのです。
そしてこれは、実際に車椅子生活をして見なければ分からないことです。
(健常者が車椅子に乗ってシミュレートしても、なかなか思いつかないでしょう)

入院中からこの問題の解決方法は見えていました。
完全固定の手すりならば安心だということです。
そして取り付けるべき位置は頭上です。
何故なら、雲梯のように体を移動できれば、確実に移動できるからです。
もっともこれは腕の力が確かだという事が絶対必要ですが。
(そこまで弱っている人は一人は危険だとも言えます)

私の案が最適だとは言いませんが、少なくとも現状は未完成だという事は言っておきます。

また、トイレに関しては決定的な事として、必要な時に限って無い、ということも言えます。
先に出た頻尿の場合も、車椅子の場合も、トイレの確保というのは本当に大切です。
ほとんどのケースで、障害者用トイレが店舗に一つだけです。
しかも最近ではユニバーサルスペースとしての活用が多く、車椅子の人が入ろうとした時に、赤ちゃんのオムツを交換している人が入っているとか。
ユニバーサルなので誰が使っても良いのですが、問題はむしろそういうケースを想定しないで必要個数を設置しない事です。
どの位置からもあまり遠くない場所にトイレを設置するとか、距離的な問題も。

昨今では身体障害者に対する配慮もなされてきてはいますが、あくまで健常者から見た使い勝手の良さなので、その辺もうちょっと進歩してくれればな、と思います。
(法制度は障害者切り捨てに走っておりますがね)



さて、話を頻尿に戻しますと。
トイレが近いことによってQOL低下が激しく起こります。
これについてはちょっとした配慮や工夫で、いかようにも対処できます。問題はそれを意識するかどうか、です。


まず、当事者からのアプローチ。

頻尿という症状に立ち向かうためには、それなりの準備をしておくことが必要です。
準備、それはもうトイレの場所確保に他なりません。
例えば通勤通学などで、ルート上でトイレの場所を予め知っておけば、もよおした時の対処も早いし、何よりそれが安心感に繋がるのです(←一番大事!)

車でドライブをする時などは、一般道ならコンビニや道の駅、スーパー、ホームセンターなど、気兼ねなくトイレに入れる場所を下調べしておくことも有効です。
ちなみにパチンコ屋はトイレお断りのところが多いです。ケチくせぇ。
高速道路ならSAPAになりますが、渋滞したときのことを考えて、携帯トイレを持っておくことも大切です。
私の場合は、季節ごとの渋滞予測から予め休憩ポイントを決めてしまいます。不意の渋滞でも対処は可能です。

不測の事態に備えることも重要ですが、自分のタンク容量からトイレポイントを決めておくことは、強力な武器になります。


次に周囲のアプローチ。

もう、当事者の気持ちを察してあげること。これに尽きます。
めんどくさいとかまだ大丈夫だろとか気合で我慢しろだとか、そういった心無い一言は当事者に深く傷をつけることになります。
我慢できるならしとるわボケ!と逆切れされることもあるかも。
過活動膀胱とか過敏性大腸症候群とかに悩む人は、生真面目でストレスを受けやすい人が多いのではないかと思います。そういう人はトイレの事を言い出せずにドツボにはまることが多いので、周りが気を遣ってあげてください。

またトイレスペースを確保する事。
例えば商店街などでトイレを開放していることを明示してあげることで、大分救われます。
特に主要道路においては、一定区間ごとにトイレのある店舗を設置することで役に立ちますし、ちょっとした売り上げにも貢献できるかも知れません。

余談ですが、ヨーロッパではトイレは有料です。とはいっても1回に数十円程度です。
以前JR東京駅のトイレを有料化しようとしたことがありましたが、これはアリだと思いますよ。
トイレの維持費を捻出するための入場料(?)は、別に抵抗はありません。というか金の問題じゃない時もありますし。
課金する時にはぜひとも後払いでお願いしたいです。



「トイレ近いなら水飲むな」という人がいますが、これはNGです。

阪神大震災でトイレを我慢するために水を飲まなくなり、脱水症状を起こすというケースが目立ちました。
循環体液量の減少は脱水症状もさることながら、医薬品を服用した時にも大きく影響します。また塞栓を起こしやすくなったり、非常に危険です。

そして、これは経験則ですが。
水分控えてもトイレが近いのは治りません。
尿量が少ないながら、回数は変わらないものです。頻尿の原因が尿量ではなく膀胱過緊張ですから。
必要な水分は絶対に摂取してください。



少々長くなりましたが、このトイレ事情は誰にでも当てはまることです。

トイレを設置、維持するのはお金も掛かるしなかなか大変なんですが、衛生面でもっとも基本的な事です。
誰もが安心して自由に行動できるための環境作りは、何よりも大切にして欲しいです。
また体が不自由で困っている人がいたら、少しで良いので気を配りましょう。それだけでかなり違うものです。

ほんの少しの気遣い。全てはそこから始まります。