バンカーは一度はまるとなかなか抜けられないみたい2007年07月12日 12時29分28秒

金融腐蝕列島「呪縛」を読みました。

金融腐蝕列島と銀行告発を読み、この手の小説にちょっとはまり中。と言いつつ内容がしっかり分かっているわけではないですが。
また小説の方を読んだ後に、映画のDVDも鑑賞しました。

小説の方からいきますと、合併銀行ACBに勤務する北野。彼は同銀行の最高権力者である佐々木の娘婿に当たる。親の引き立てがあってのことか、ミドルクラスではエース格扱いとなるが、当の北野はそれを思わしくないと、積極的に距離を置いていた。
そんな折、不正融資事件絡みで銀行本社に東京地検の家宅捜査が入り、それを機にACBが未曾有の危機に飲み込まれていく―

という第一勧銀の総会屋への利益供与事件がモチーフとなった、あまりにも有名な作品です。
合併銀行故の下らない旧行意識、ボードの責任逃れ、そして元会長の自殺と、ほとんどそのまんまだそうです。第一勧銀の方は詳しくは知らんのですが・・・
第一作の「金融腐蝕列島」は、どうも話がまとまらずに終わっていると言うか続く事を前提としているようですが、「呪縛」の方は上下巻できっちりまとまっていますので、単品でお楽しみいただけます。

さてこの作品は映画にもなっていまして、どっちかというと映画の方が有名じゃないですかね。
スタンスとしては、金融腐蝕列島「呪縛」をなぞってはいるのですが、ディテールは異なっています。
原作は、主人公・北野の視点が主なのですが、映画だとそれに加えて bloomberg(実際の会社名で登場)の女性キャスターなどの視点も追加されています。
監督の話によると、原作に加えて銀行、というよりは日本の会社全体に蔓延る男女雇用の不均等を盛り込んでいるそうですね。先の女性キャスターや、ACB新体制の顧問弁護士団のトップが女性であるなど、重要ポストに積極的に女性をキャスティングすることでアピールしているとのことです。
後述しますが、原作とは結構違う点が多いですね。

この映画のキャッチコピーに「読んでから観るか、観てから読むか」みたいなのがありましたが、私は原作を読んでからの方をおすすめします。
2時間映画ですが、要所要所をつまみ食いで詰め込んだ感は否めず、しかもオリジナルキャラクターまで盛り込んでいるので、映画だけだと話がよく分からないかと思います。DKBの話を知っていれば違うでしょうが、まったくまっさらな状態では、置いてきぼり感が強いでしょう。
それよりは、原作を読んでストーリーの仔細を一度頭に入れた状態で映画を観た方が、原作との違いを楽しみ、また役者の好演を堪能できます。

その原作との相違についてですが、大まかな幹は同じですが枝葉はかなり異なりますね。
原作には無いキャラクタはもちろん、元会長久山の決断の場所が違ったり、MOF担片山が北野の後輩然としていたり、石井が襲われたり。あまり言うとネタバレになっちゃいますが。
決定的な違いとしては、「千久」が出てこないことです。
原作でこれ以上ないという位に物語の動機ともなるべきポジションが無いのはかなり大きな違いです。これによって最高権力者である佐々木の行動がいまいち説明できなかったと感じてしまいます。
これも2時間に収めなければならない監督の苦悩とも言えるでしょう。
だからこそ原作は先に読んだほうが良いと思います。逆に、原作を読んでいても映画は十二分に楽しめます。いずれにせよ原作は避けて通れないです。

キャスティングはかなり豪華ですね。
主人公・北野には世界の中年オヤジこと役所広司、同期(のはずの)MOF担・片山には椎名桔平。北野の義理の父にして最高権力者の佐々木に仲代達矢 。新頭取中山に根津甚八。他にもジョージアCMの部長こと石橋蓮司(中澤専務役)、ライフカードのオダジョーの上司こと本田博太郎(陣内副頭取役)。総会屋の大物・川上多治郎役には故・丹波哲郎。その弟子とも言うべき小田島敬太郎には若松武史・・・ってこの方は知りませんです。
オリジナルキャラクターには、bloombergのキャスター和田美穂に若村真由美、新体制の顧問弁護士団トップ一条弁護士にもたいまさこ。
陣内副頭取役の本田博太郎さん。出番はかなり少ないものの、陣内と言うキャラクタを容易に想像できる配役ですね。嫌な面は出していませんが、多分彼のちょっとひねくれたイメージそのものです。しかしそれだけではなく、少しだけ茶目っ気を出しているところが、一層陣内と言うキャラクタの優柔不断さを演じきっていると思います。
弁護士役のもたいまさこさんも、不敵なキャラクタでたまらんですね。鉄仮面かと思いきや、株主総会リハーサルの打ち合わせで、結構 カゲキな事言っちゃう 片山「退場に従わない株主にはどこまでやっていいんですかね」
中山「腕(を掴む)ぐらいはいいんじゃないか」

一条「(リハーサルの)今回に限り、引きずり出してボコボコにしちゃってもいいでしょう」

一条「(にやり)冗談です」
あたりがもう。
不満が残ったのは最高顧問・佐々木。
好演ですが、本物はもっと憎々しくて外道です。映画だとその辺を描ききるところが時間上描写できないのでしょうがないですかね。権力にしがみつく浅ましさは十二分に演じられております。

再三言いますが、役者さんに演技に集中するために、原作を先に読むことをオススメします。



原作の解説に、

製作発表の記者会見で、老外相談役の佐々木役の仲代は、
「脚本を読んで愕然としました。世の中にこれほど救いのない人間がいるのか。そして、その救いのない人間を私が演じなければいけないのか」
と言ったという。
(略)
しかし、"救いのない"人間は現にいるのであり、
とあったのが、実に印象的でした。脚本でこうのなのだから、原作の佐々木は余程のものであり、それは実際にいたということです。



追記。ラストシーンについて。ネタバレなので見たい人は選択で見てください。

ラストシーンは久山元会長の墓前にて、北野と小田島敬太郎が初めて相対する場面です。
原作だと北野と妻の今日子、それに片山の3名での遭遇なのですが、映画だと北野一人。さらに小田島の他に北野を付け狙っていた謎の青年も一緒 です。
中盤、東都経済の購読打ち切りに関する報復として石井が狙撃され重傷を負うのですが、その後品川駅のホームで北野を付け狙う手の者、とのつながりからラストで敵方が2人になったのでしょうが、ここは原作どおりにして欲しかったです。
このラストは日本の社会への警鐘という、作品の中で最も重要な場面なので、下手にいじって欲しくなかったですね。

2007.07.13追記
小田島が足を洗うといっているのに対し、それでも闇は企業を逃さない、という宣戦布告があり、その戦いは続くのだと言う事を強調するために、あえて次の敵役を登場させる事で表現したのかな、とも考えられますね。

さらに言うと、原作は雨でしたが映画は曇り。
出来れば「傘を差していてそれが風で飛ばされて、拾った相手が小田島」という演出を崩して欲しくはなかったかなぁ。主人公と敵役の一騎打ち、という構図も捨てがたいのですが、傘は使って欲しかった。
小田島の登場の仕方が、いささか軽い感じになってしまったのではないかと思います。

ラストでの緊張感が多少そがれてしまったのは残念です。

コメント

_ なす ― 2007年07月12日 14時41分48秒

事実は小説より奇なり。
現実を小説にしたらそりゃあ面白いってもんだよな。
てゆーか、キャスティングだけで見たくなったw

_ @DRK ― 2007年07月12日 14時58分11秒

先に原作を読むことをオススメしますw
ただ結構長いから時間は掛かるなぁ。ヘヴィノベルですよw

_ GAMI ― 2007年07月13日 09時44分18秒

こんにちわ。はじめまして。
若松さんは寺山修司率いる演劇実験室「天井桟敷」出身の俳優さんで、
どちらかというと舞台中心の方です。
そちら方面では有名な実力派俳優さんです。

_ @DRK ― 2007年07月13日 09時48分41秒

GAMIさま、はじめまして。ようこそ。
舞台俳優さんですか。テレビに出ていない方はなかなか分からんですよ。
でも実にいい演技でした。

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